琵琶とヨガがくれたShantiな毎日

Shanti シャーンティとはインドの古い言葉で、平和、安らぎのこと。編集者として働く私が、こよなく愛する琵琶とヨガの魅力を綴ります。

久しく武器も使われないほど平和な理想郷 ~琵琶の名曲紹介⑤ 蓬莱山

こんにちは。薩摩琵琶奏者の中尾掌水、
ヨガインストラクターのゆうこです。
普段は書籍の編集者として働いています。

君が代は 千代に 八千代に さざれ石の 巌となりて 苔の蒸すまで

“わが君の治めるこの世が、千年も八千年も長く続きますように。
小さな石が大きな岩となって、その岩に苔が生えるまでの悠久の長きにわたって“

言わずと知れた国歌の一歌詞です。古い歌で、10世紀初頭の最初の勅撰和歌集古今和歌集』(紀貫之が撰集)に、「詠み人知らず」として残されています。

薩摩琵琶の故郷・鹿児島の薩摩では、藩主・島津家から下々の民衆まで、この古歌が慶賀の席での定番として愛されてきたのだとか。薩摩伝唱の琵琶歌「蓬莱山」です。

蓬莱山とは中国古代の伝説上の国で、仙人が住み、不老不死の薬があると言われています。「蓬莱山」はそんな理想郷を語る一曲で、日本の国歌の元にもなりました。この琵琶の曲がなければ、国歌は違うものになっていたのかも。

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この夢のような世界・蓬莱山を古今東西の画家は描いてきました。冨田溪仙《蓬莱山図》東京富士美術館

松の枝には、鶴巣くい 巌(いわお)の上には、亀遊ぶ
鶴、亀、松、竹と、とにかく縁起のよい言葉が並びます。

千草萬木、花咲き実のり 五穀は国に満ち満ちて 金殿楼閣、甍(いらか)を並べ 竈(かまど)の煙にぎわいて
”この世のすべての植物は花が咲き乱れ、実りも実に豊かだ。国中には五穀が満ち溢れている。キラキラとして輝かしい家屋からは、かまどの煙も絶え間なくのぼっている(食べ物に困ることもない)。”

弓は袋に、太刀は鞘 諌鼓(かんこ)に、苔は深うして 驚く鳥もなかりけり
”武器である弓は袋にしまったまま。刀も鞘に納められたまま。それくらい戦争や争いがずっと起きていない。諌鼓とは、古代中国で君主に対して諫言する際に打つために設けられた太鼓のこと。この太鼓も苔が生えてしまうほど、長年鳴らされていない。鳥さえも、この太鼓に止まってくつろいでいるではないか…。”

平穏な世の中であることを描写するのに、なんてすばらしい表現が続くのでしょう!この「蓬莱山」こそ、美しい日本の言葉の宝庫と言っても過言ではありません。声に出すと、おおらかで満たされたムードに包まれます。

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ちなみに、さざれ石とはこのような石。小石が長い年月をかけて結びつき、大きな岩になります。まるで成長するかのようなことから、神霊が宿る石として信仰されてきました。よく神社の境内で見かけます。

この名曲も、3月26日(土)に谷中の古民家・市田邸さんで開催する「薩摩琵琶を通して味わう 日本の美しい言葉」で演奏します。春の気配を感じる3月下旬にはぴったりの内容です。市田邸近くの上野公園でも、桜が開花しているかもしれません。

次のブログは、「物欲をおさえてくれる魔法の言葉“私は満ち足りている”知足のこころ」です。
(2022年3月26日更新予定)